所得・控除

【給与所得】特定支出控除のしくみと手続き【確定申告が必要】

相談者
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サラリーマンでも必要経費が認められる特定支出控除が受けられると聞きました。詳しく教えてください。

役所の税務担当として、毎日申告の相談を受けてきた筆者がズバリ解決します!

特定支出控除とはどんな制度?

給与所得者は、自営業者のように、所得税と住民税の計算上、必要経費を計上することはできません。しかし、一定の要件に該当すれば、必要経費が認められる場合があります。これを特定支出控除といいます。

給与所得は一般的に、給与収入-給与所得控除額によって求められます。
会社員であっても衣服などの必要経費がありますが、自営業者などと比べるとわずかであること、全ての会社員が必要経費を税務署に申告すると、納税者と税務署の双方に膨大な事務負担が生じることから、必要経費に代えて、一定の計算式により算出した給与所得控除を給与収入から差し引いて所得を計算しています。

令和2年分以降
給与収入 給与所得控除額
162.5万円以下 55万円
162.5円超180万円以下 収入金額×40%-10万円
180万円超360万円以下 収入金額×30%+8万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+44万円
660万円超850万円以下 収入金額×10%+110万円
850万円超 195万円(上限)

要件と控除額

特定支出額が給与所得控除額の1/2を超える場合は、その超えた分を給与所得控除後の所得金額から控除することができます。

給与所得の金額=収入金額-給与所得控除額-特定支出控除額

特定支出控除額=特定支出額-給与所得控除額×1/2

1/2 給与所得
控除額
収入金額
特定支出額
1/2
特定支出
控除額
  給与所得
の金額

特定支出

通勤費

特定支出は以下のとおりです。

通勤費 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出
職務上の旅費 勤務する場所を離れて職務を遂行するための直接必要な旅行のために通常必要な支出
転居費 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出
研修費 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出
資格取得費 職務に直接必要な資格を取得するための支出
帰宅旅費 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出
勤務必要経費 職務の遂行に直接必要なもののうち、以下に掲げる支出(限度額65万円)
図書費 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用
衣服費 制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用
交際費等 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出

特定支出控除を適用した人数は多くありません。平成30年分は全国で1,704人(適用件数3,154件)で、特定支出の内訳は、通勤費が471件、転居費が86件、研修費が546件、資格取得費が581件、帰宅旅費が531件、勤務必要経費が939件でした。

通勤費

要件

  • 通勤のために必要な交通機関の利用又は交通用具(自家用車等)の使用のための支出
  • 経路及び方法が運賃、時間、距離その他の事情に照らして最も経済的かつ合理的であることにつき給与等の支払者によって証明がされたもの

具体例

方法 対象となる金額
交通機関 運賃及び料金の額の合計額
※1月当たりの定期乗車券又は定期乗船券の価額の合計額を上限とします。
※特急料金は対象
※客室の特別の設備の利用についての料金(グリーン車料金など)は対象外
※年をまたがる定期券については、その購入価額のうち、それぞれの年の有効期間に対応する部分の金額
※回数乗車券については、購入価額のうちその使用した回数乗車券に対応する部分に相当する金額
自家用車等 燃料費、有料道路の料金、修理のための支出のうち、通勤に係る部分の額
※資本的支出に相当する部分及び故意又は重大な過失により生じた事故に係る修理は対象外
※減価償却費や自動車税は対象外

航空機は対象外となります。

職務上の旅費

要件

  • 勤務する場所を離れて職務を遂行するために直接必要な旅行であることにつき給与等の支払者によって証明がされたもの
  • 運賃、時間、距離その他の事情に照らして最も経済的かつ合理的と認められる通常の経路及び方法によるものに要する支出

具体例

方法 対象となる金額
交通機関 旅行に要する運賃及び料金の額
※特急料金は対象
※客室の特別の設備の利用についての料金(グリーン車料金、ファーストクラス料金など)は対象外
※年をまたがる定期券については、その購入価額のうち、それぞれの年の有効期間に対応する部分の金額
※回数乗車券については、購入価額のうちその使用した回数乗車券に対応する部分に相当する金額
自家用車等 燃料費、有料道路の料金、修理のための支出の額
※資本的支出に相当する部分及び故意又は重大な過失により生じた事故に係る修理は対象
※減価償却費や自動車税は対象外

転居費

要件

  • 転任に伴うものであることについて給与等の支払者により証明がされた転居のための支出
  • 転任の事実が生じた日以後1年以内にする転居のための自己又はその配偶者その他の親族に係る支出

具体例

方法 対象となる金額
交通機関 転居のための旅行に要する運賃及び料金の額
※特急料金は対象
※客室の特別の設備の利用についての料金(グリーン車料金、ファーストクラス料金など)は対象外
※年をまたがる定期券については、その購入価額のうち、それぞれの年の有効期間に対応する部分の金額
※回数乗車券については、購入価額のうちその使用した回数乗車券に対応する部分に相当する金額
自家用車等 燃料費、有料道路の料金
宿泊 転居に伴う宿泊費の額
※通常必要であると認められる額を著しく超える部分は対象外
運送 転居のための生活の用に供する家具その他の資産の運送に要した費用の額
※付随する費用(梱包材料の購入費用や運送中の家具の損傷を保険の目的とする損害保険契約の保険料など)は対象
※壁の塗り替えや畳替えのための費用は対象外

研修費

要件

職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得することを目的として受講する研修(資格取得費を除く。)であることについて給与等の支払者によって証明がされたもののための支出

※「受講する研修」とは、第三者が自己の有する技術又は知識を不特定多数の方に習得させることを目的として開設されている講座等において、その第三者から訓練又は講習を受けることにより、その技術又は知識を習得する、いわば受動的立場での研修をいいます。
※特定支出控除の対象となる研修を受講するための交通費も特定支出控除の対象となります。なお、その交通費が研修を受けるために必要な支出であるかどうかは、その研修の内容、旅行経路、旅行期間等を総合勘案して実質的に判断します。

資格取得費

要件

人の資格を取得するための支出で、職務の遂行に直接必要なものであることについて給与等の支払者によって証明がされたものが対象となります。

※年をまたがる授業を受ける場合に、授業料等の支出をしたときには、入学金など入学に際
て一括で支払うこととされているものを除き、その支出した金額のうちそれぞれの年に対応する部分の金額をそれぞれの年の特定支出の金額として計算します。
※資格を取得するための支出については、結果として資格の取得が出来なかった場合であっても、特定支出となります。
※特定支出控除の対象となる資格取得のための授業を受講するための交通費も特定支出控除の対象となります。なお、その交通費が授業を受けるために必要な支出であるかどうかは、その授業の内容、旅行経路、旅行期間等を総合勘案して実質的に判断します。

帰宅旅費

要件

  • 転任に伴い次の(1)に掲げる場合に該当することとなったことについて、給与等の支払者によって証明がされた場合における、その者の勤務する場所又は居所とその配偶者その他の親族が居住する場所との間のその者の旅行
  • 運賃、時間、距離その他の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の経路及び方法によるものに要する次の(2)に掲げる支出

(1)転任に伴い次に掲げることとなった場合
ア 生計を同一にする配偶者との別居を常況とすること
イ 配偶者と死別・離婚した後婚姻していない方や配偶者の生死が明らかでない者が、次に掲げる者との別居を常況とすること
・生計を同一にする所得金額の合計額が 48 万円以下の子
・生計を同一にする特別障害者である子
(2)その旅行に要する次に掲げる支出
ア 運賃及び料金(特別車両料金等及び航空機の客室の特別の設備の利用(グリーン車やファーストクラス料金など)についての料金を除く。)
イ 自動車その他の交通用具の使用に係る燃料費及び有料の道路の料金

勤務必要経費

要件

  • 次の(1)~(3)に掲げる支出(限度額65 万円)
  • 職務の遂行に直接必要なものであることについて給与等の支払者により証明がされたもの

(1)次に掲げる図書で職務に関連するものを購入するための支出
ア 書籍
イ 新聞、雑誌その他の定期刊行物
ウ ア及びイに掲げるもののほか、不特定多数の方に販売することを目的として発行される図書

(2)次に掲げる衣服で勤務場所において着用することが必要とされるものを購入するための支出
ア 制服
イ 事務服
ウ 作業服
エ アからウまでに掲げるもののほか、給与等の支払者により勤務場所において着用することが必要とされる衣服

(3)交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出

特定支出控除の手続き

必要書類

原則として、全ての領収書と勤務先の証明が必要です。

必要書類
  • 給与所得者の特定支出に関する明細書
  • 給与所得者の特定支出に関する証明書
  • 領収書等
  • 搭乗・乗車・乗船に関する証明書

給与所得者の特定支出に関する明細書

特定支出の明細を記入し、特定支出控除後の給与所得金額を計算する書類です。申告者本人が記入します。

給与所得者の特定支出に関する明細書クリックすると拡大します。

給与所得者の特定支出に関する証明書

上表の各区分ごとに様式があります。従業員が勤務先に依頼し、勤務先が証明する形式になっており、依頼部分を申告者、証明部分を勤務先が記入します。

給与所得者の特定支出に関する証明書クリックすると拡大します。

領収書等

特定支出の全てについて領収書等が必要です。ただし、電車や船などの運賃で1回の乗車・乗船の金額が 1,000 円以下のものについては省略することができます。この場合、その運賃の支払年月日、支払先、支払金額、経路、方法等について記録しておくことが必要です。

領収書のほか、銀行振込の際に受ける払込受取書、通勤定期乗車券のコピー、定期乗車券購入証明書についても、その支出の事実や支出した金額を明らかにすることができるものであれば、領収書の代わりとすることができます。

領収書等は上記「給与所得者の特定支出に関する明細書」の所定の欄に貼り付けます。

搭乗・乗車・乗船に関する証明書

帰宅旅費については、領収書等に加えて「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」が必要です。窓口にて旅客運送事業者(JR・私鉄など)に記入してもらいます。鉄道・船舶・自動車を利用する場合は、一つの旅客運送事業者(JR・各種私鉄など)ごとの運賃・料金の額が 15,000 円未満であれば省略できます。

搭乗・乗車・乗船に関する証明書は上記「給与所得者の特定支出に関する明細書」の所定の欄に貼り付けます。

搭乗・乗車・乗船に関する証明書クリックすると拡大します。

確定申告

特定支出控除の適用を受けるためには、確定申告をしなければなりません。

具体的には、確定申告書、修正申告書、更正の請求書に、特定支出控除の適用を受ける旨と特定支出の額の合計額の記載をするとともに、給与所得者の特定支出に関する明細書と給与所得者の特定支出に関する証明書を添付する必要があります。

手書きの場合

「給与所得者の特定支出に関する明細書」に記入方法が記載されています。

(1)申告書第一表
区分欄に番号を記入し、特定支出控除後の所得金額を記入します。
特定支出控除

(2)申告書第二表
「特例適用条文等」欄に「所法57の2」と特定支出の合計額を記入します。
なお、「所法57の2」は、特定支出控除を規定した所得税法第57条の2を表します。

確定申告書等作成コーナーで作成する場合

パソコンやスマートフォンで作成する場合は、「給与所得の入力」ページの「特定支出控除の入力」欄に、手書きで作成した「給与所得者の特定支出に関する明細書」から各特定支出の金額を入力します。

特定支出控除