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先物取引のしくみ
先物取引とは、将来の予め定められた期日(満期日、SQ日)に特定の商品(原資産)を現時点で取り決めた価格(先物価格)で売買することを約束する取引をいいます。
限月取引とは
先物取引は限月(げんげつ)取引により行われます。限月とは満期月をいい、日経225先物取引では、3月、6月、9月、12月を限月とし、各限月の満期日(SQ日)である第2金曜日の前日を、取引最終日としています。取引最終日の翌日に新たな限月の取引が開始します。
決済の方法
反対売買
買建て又は売建てにより取得した建玉(たてぎょく)を各限月の最終取引日までに転売又は買戻しによって決済する方法をいいます。
最終決済
反対決済をせずに最終取引日を超えて建玉を保有した場合は、満期日に計算される特別清算指数(SQ値)で自動的に決済する方法をいいます。
ロールオーバーとは
直近の限月(期近)における建玉を決済し、次の限月(期先)において新たに建玉を保有することにより、限月を乗り換えることをロールオーバーといいます。
コンタンゴ
原油や天然ガスなど、保有コスト(コスト・オブ・キャリー)が生じる先物については、期近よりも期先の方が保有期間が長くなるため、先物価格が高くなるのが一般的です。この状態をコンタンゴといいます。
コンタンゴの状態にある場合、現在よりも高い建玉に乗り換えるため、ロールオーバーコストが生じます。原油先物に投資する原油ETFはコンタンゴにより減価するため、長期的な保有には不向きとされています。
バックワーデーション
一方、期近より期先の方が高くなっている状態をバックワーデーションといいます。直近に山火事や戦争などにより価格が一時的に高騰している場合に見られます。コンタンゴが一般的な原油であっても、左記の理由等によりバックワーデーションとなる場合もあります。
先物の種類
商品先物取引
商品先物取引法(農林水産省所管)に規定する一定の取引が該当します。
取引所取引
商品取引所を通じて商品先物の取引を行います。主に農作物の販売業者や商社などが、商品の価格変動リスクを回避するために利用されます。
国内で商品先物を取引できる取引所は、大阪取引所、東京商品取引所、大阪堂島商品取引所があります。なお、大阪取引所と東京商品取引所は、東京証券取引所とともに「日本取引所グループ(JPX)」とされています。
取引所 | 商品 |
---|---|
大阪取引所 | 金標準、金ミニ、金限日、銀、白金標準、白金ミニ、白金限日、パラジウム、ゴム RSS3、ゴム TSR20、とうもろこし、一般大豆、小豆 ※東京商品取引所から移管 商品一覧(日本取引所グループ) |
東京商品取引所 | バージガソリン、バージ灯油、プラッツドバイ原油、中京ローリーガソリン、中京ローリー灯油 商品一覧(東京商品取引所) |
大阪堂島商品取引所 | コメ、とうもろこし、米国産大豆、小豆、粗糖 |
店頭取引(相対取引)
商品取引所を通さず、特定店頭商品デリバティブ取引業者(一定の証券会社)と投資家との間で取引が行われます。店頭商品デリバティブ取引(店頭CFD)と呼ばれ、個人投資家が行う商品先物取引の多くがこの方法で行われます。
金融商品先物取引等
金融商品取引法(金融庁所管)に規定する一定の取引が該当します。
取引所取引
金融先物取引所を通じて商品先物の取引を行います。主に大阪取引所と東京金融取引所があります。特に、東京金融取引所のくりっく365は、外国為替証拠金取引(FX取引)を扱う唯一の取引所です。
取引所 | 商品 |
---|---|
大阪取引所 | 日経225先物、日経225mini、TOPIX先物、ミニTOPIX先物、 JPX日経インデックス400先物、東証マザーズ指数先物、TOPIX Core30先物、RNプライム指数先物、東証銀行業株価指数先物、NYダウ先物、台湾加権指数先物、FTSE中国50先物、日経平均・配当指数先物、TOPIX配当指数先物、TOPIX Core30配当指数先物、日経平均VI先物、東証REIT指数先物、中期国債先物、長期国債先物、ミニ長期国債先物、超長期国債先物 商品一覧(日本取引所グループ) |
東京金融取引所 | くりっく365 上場商品概要(東京金融取引所) |
店頭取引
金融先物取引所を通さず、特定店頭商品デリバティブ取引業者(一定の証券会社)と投資家との間で取引が行われます。店頭商品デリバティブ取引(店頭CFD)と呼ばれ、外国為替証拠金取引(FX取引)の多くがこの方法で行われます。
カバーワラントの取得
カバーワラントとは、対象資産(日経平均株価など)について、買う権利(コール)や売る権利(プット)を証券化した有価証券をいいます。一定の期日(権利行使日)に、あらかじめ決められた価格(権利行使価格)と決済価格(最終参照価格)との間の差金を授受することにより決済します。
先物取引の損益計算
収入金額
上記取引の差金等決済から生じた損益を収入金額として計上します。
必要経費
取引手数料が該当します。
そのほか、オプション取引を行うためのパソコン代金(減価償却費)、プロバイダ料金、書籍代、セミナー料金などが挙げられますが、オプション取引以外の経費との区別を合理的に説明できなければなりません。
計算の単位
計算は建玉ごとに行います(個別法)。
収入 確定した利益又は損失 |
必要経費等 取引手数料 |
先物取引に係る雑所得等 |
確定申告の方法
所得の区分
先物取引は先物取引に係る雑所得等に該当し、申告分離課税として所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%が課されます。
申告分離課税であるため、原則として確定申告しなければなりません。
所得税 | 復興特別 所得税 |
住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
都道府県 | 市区町村 | |||
15% | 0.315% | 2% 1% |
3% 4% |
20.315% |
※上段:政令指定都市以外、下段:政令指定都市
確定申告書の作成方法
国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーでの作成方法を解説します。「先物取引に係る雑所得等」から入力画面に遷移します。
この画面は「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」を作成するための入力フォームです。この明細書は全ての取引を記載する様式となっているため、入力フォーム上も取引を1件1件入力する仕様となっています。
ただし、先物取引の回数が多い場合は全て入力するのは現実的でないため、合計して1件分として入力するのが一般的です。この場合、取引の全明細を添付することが望ましいといえます。
所得区分
先物取引を業として行っている場合でなければ、「雑所得用」を選択します。
取引の内容
項目 | 入力内容 |
---|---|
種類 | 「日経225mini」のように入力します。 |
決済年月日 | 1件1件入力する場合はその年月日を入力します。 まとめて入力する場合は、最初の取引日を入力します。 |
数量 | 1件1件入力する場合はその枚数を入力します。 まとめて入力する場合は、合計の枚数を入力します。 |
決済の方法 | 「転売」「買戻し」「権利行使」「権利放棄」のように入力します。 まとめて入力する場合は、最初の決済の方法を入力します。 |
※まとめて入力する方法は国税庁が公式に記載例として案内しているものではありませんのでご注意ください。
収入
「差金等決済に係る利益又は損失の額」に収入金額を入力します。
コールの権利行使 | プットの権利行使 | 権利放棄 | |
---|---|---|---|
市場価格 | 行使価格 | ||
買い手 | -行使価格 | -市場価格 | |
-プレミアム | -プレミアム | -プレミアム | |
行使価格 | 市場価格 | ||
売り手 | -市場価格 | -行使価格 | |
+プレミアム | +プレミアム | +プレミアム |
※「譲渡による収入金額」はカバーワラントを譲渡した際に入力します。
必要経費等
「委託手数料」に取引手数料を入力します。
そのほか、先物取引を行うためのパソコン代金(減価償却費)、プロバイダ料金、書籍代、セミナー料金などを申告する場合は、入力窓に適宜入力します。
※「譲渡による収入金額に係る取得費」はカバーワラントを譲渡した際に入力します。
出力例
上記のとおり入力すると、以下のとおり出力されます。