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暗号資産(仮想通貨)の所得税と住民税の申告方法【ビットコイン】

相談者
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暗号資産(仮想通貨)の取引を始めましたが、税金の計算方法や確定申告の方法が全く分かりません。

役所の税務担当として、毎日申告の相談を受けてきた筆者がズバリ解決します!

所得区分と所得金額

所得区分

暗号資産(仮想通貨)から生じた利益は、所得税及び住民税の計算上、雑所得又は事業所得に該当します。

雑所得と営業所得
損失が生じた場合、雑所得に該当するときは他の雑所得(公的年金等に係るものを含む。)としか相殺することができません。一方、事業所得は他の所得区分(総合課税に係るものに限る。)と損益通算することができ、青色申告者においては、控除しきれなかった損失(純損失)を翌年度に繰り越すことができます(繰越控除)。

FX取引や先物取引との違い
外国為替証拠金取引(FX取引)や先物取引は、先物取引に係る雑所得等として分離課税(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税(所得割)5%)の対象となります。租税特別措置法では、先物取引に係る雑所得等の対象について、金融商品取引法等に基づき行われる商品先物取引等、金融商品先物取引等又はカバードワラントの取得とされています。 外国為替証拠金取引(FX取引)や先物取引はこれに該当しますが、暗号資産取引(証拠金取引信用取引を含む。)はこれに該当しないため、原則どおり総合課税の対象となります。

雑所得(原則)

原則として、雑所得として総合課税の対象となります。

なお、上記のとおり、同じ雑所得であっても、外国為替証拠金取引(FX取引)から生じた利益は先物取引に係る雑所得等として申告分離課税の対象となります。

事業所得(例外)

以下に該当する場合は、事業所得に該当します。

  • その暗号資産取引自体が事業と認められる場合
    (例)暗号資産取引の収入によって生計を立てていることが客観的に明らかである場合
  • その暗号資産取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合
    (例)事業所得者が、事業用資産として暗号資産を保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として暗号資産を使用した場合

現実的には、上記の事由により個人事業主として事業所得が認められる可能性は極めて低いと考えるべきです。

平成22年2月16日国税不服審判所裁決「対価を得て継続的に行う事業」には該当しないとした事例

所得金額

雑所得及び事業所得のいずれも、所得金額は以下の算式で求めます。

所得金額=総収入金額−必要経費

帰属年分

原則

売却等をした暗号資産の引渡しがあった日の属する年分の所得となります。

例外

選択により、暗号資産の売却等に関する契約をした日の属する年分の所得とすることもできます。

収入金額

暗号資産取引により生じる収入は以下のとおりです。

区分 内容 収入金額
売却 暗号資産を売却し、日本円に換金した場合 換金した額
決済 暗号資産で商品を購入した場合 商品の購入価額
交換 暗号資産を他の暗号資産へ交換した場合 他の暗号資産の購入価額
マイニング報酬 マイニング(採掘)により報酬を受け取った場合※マイニングにより取得した暗号資産は、取得時点の時価をもって取得価額とします。 マイニング報酬



必要経費

譲渡価額

売却等により手放した暗号資産の評価額です。後述のとおり、総平均法又は移動平均法により求めます。

譲渡費用

売却の際に支払った手数料のほか、取引に利用したインターネットやスマートフォン等の回線利用料(プロバイダ料金)、パソコン等の購入費用などが挙げられます。
なお、パソコン等が減価償却資産に該当する場合は、減価償却費として法定耐用年数にわたり必要経費に算入します。
また、回線利用料やパソコン等を取引以外に使用している場合は、取引に関する部分のみが対象になります(家事関連費)。利用頻度によるあん分等、合理的な判断基準を税務署に説明できるようにする必要があります。

譲渡原価の計算方法

譲渡原価の計算は日商簿記3級の知識が必要です。そのため、実務上は国税庁ホームページに掲載されている仮想通貨の計算書を利用して計算することとなります。

譲渡原価

上記の所得金額の計算における譲渡原価は以下のとおりです。

譲渡原価=年初時点で保有する暗号資産の評価額+その年中に取得した暗号資産の取得価額の総額-年末時点で保有する暗号資産の評価額

年初時点で保有する暗号資産の評価額 譲渡原価
その年中に取得した暗号資産の取得価額の総額
年末時点で保有する暗号資産の評価額

その年中に取得した暗号資産の取得価額

その年中に取得した暗号資産の取得価額は以下のとおりです。なお、購入手数料など暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算します。

取得方法 取得価額
購入 支払った対価
贈与又は遺贈 時価
死因贈与、相続又は
包括(特定)遺贈
被相続人の死亡の時に、その被相続人が暗号資産について選択していた方法により評価した金額(被相続人が死亡時に保有する暗号資産の評価額)
仮想通貨同士の交換 時価
マイニング(採掘) 時価
分裂(分裂) 0円

年末時点で保有する暗号資産の評価額

「年末時点で保有する暗号資産の評価額」は以下のとおりです。

年末時点での1単位当たりの取得価額×年末時点で保有する数量

総平均法と移動平均法

「年末時点での1単位当たりの取得価額」を計算するに当たっては、総平均法移動平均法があります。

区分 内容
総平均法 同じ種類の仮想通貨について、年初時点で保有する暗号資産の評価額とその年中に取得した暗号資産の取得価額との総額との合計額をこれらの暗号資産の総量で除して計算した価額を「年末時点での1単位当たりの取得価額」とする方法
移動平均法 同じ種類の仮想通貨について、暗号資産を取得する都度、その取得時点において保有している暗号資産の簿価の総額をその時点で保有している暗号資産の数量で除して計算した価額を「取得時点の平均単価」とし、その年12月31日から最も近い日において算出された「取得時点の平均単価」を「年末時点での1単位当たりの取得価額」とする方法

会計上の妥当性
総平均法と移動平均法では、会計上の観点からは、移動平均法の方が妥当であるとされています。これは、期末時点の評価額について、総平均法よりも移動平均法の方がより期末時点の時価に近いからです。
ただし、移動平均法は計算が煩雑で事務負担が多い上に、証券会社が発行する年間取引報告書は総平均法を前提とした記載内容になっているため、総平均法を選択するのが一般的です。
また、税務署に「所得税の仮想通貨の評価方法の届出書」に提出しない場合は、総平均法が適用されます。

具体例

1月1日 4.0BTCを1,845,000円保有(残高4BTC)
6月10日 2.0BTCを1,650,000円で購入(残高6BTC)
7月15日 2.0BTCを2,400,000円で売却(残高4BTC)
9月5日 0.5BTCを542,800円で購入(残高4.5BTC)
11月1日 3.0BTCを2,895,000円で売却(残高1.5BTC)

(1)総平均法(3,106,000円)
・年初時点で保有する暗号資産の評価額とその年中に取得した暗号資産の取得価額の平均単価を求めます。
(年初時点の評価額+年中に取得した取得価額)/(年初時点の数量+年中に取得した数量)
・年末の数量に上記の平均単価を乗じ、年末の評価額を求めます。

年初(前年から繰越)
1,845,000円
(4.0BTC)
譲渡原価
3,106,000円
(5.0BTC)
@621,200円
年中
2,192,800円
(2.5BTC)
年末(翌年へ繰越)
931,800円
(1.5BTC)
@621,200円

(2)移動平均法(3,080,200円)
残高:数量と金額から単価を求めます。
購入:数量と金額を残高に加算します。
売却:売却した数量に直前の残高の単価を乗じて金額を求めます。

日付 購入
売却
残高
数量 金額 数量 単価 金額 数量 単価 金額
1/1 –  4.0 461,250 1,845,000
6/10 2.0 1,650,000 –  –  6.0 582,500 3,495,000
7/15 2.0 582,500 1,165,000 4.0 582,500 2,330,000
9/5 0.5 542,800 4.5 638,400 2,872,800
11/1 3.0 638,400 1,915,200 1.5 638,400 957,600
合計   2,192,800     3,080,200      
年初(前年から繰越)
1,845,000円
(4.0BTC)
譲渡原価
3,080,200円
(5.0BTC)
年中
2,192,800円
(2.5BTC)
年末(翌年へ繰越)
957,600円
(1.5BTC)

年間取引報告書の利用

証券会社から送られる「年間取引報告書」を「仮想通貨の計算書」に転記することにより、総平均法を簡便に計算することができます。
仮想通貨の計算書は国税庁ホームページから入手することができます。

年間取引報告書国税庁パンフレット(クリックすると拡大します。)



損失が生じたとき

雑所得

その年中に生じた他の雑所得と相殺することができます。雑所得は、その他雑所得のほか、公的年金等に係る雑所得も含まれます。

収入 必要経費 所得
暗号資産(A取引所) 10万円 12万円 △2万円
暗号資産(B取引所) 8万円 5万円 1万円
原稿料 6万円 2万円 4万円
その他雑所得の合計 24万円 19万円 5万円

事業所得

総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額等を計算する際に、他の各種所得の金額から控除することができます。また、青色申告者においては、控除しきれなかった損失(純損失)を翌年度に繰り越すことができます(繰越控除)。

以上の点が事業所得のメリットですが、前述のとおり、個人事業主として事業所得が認められる可能性は極めて低いといえます。

確定申告などの手続き

所得税の仮想通貨の評価方法の届出書

総平均法と移動平均法は必要経費のうち譲渡価額が異なるため、所得金額に影響を及ぼします。そのため、評価方法をあらかじめ選択する必要があります。具体的には、初めて暗号資産を取得した年分の確定申告期限(原則:翌年3月 15 日)までに、納税地の所轄税務署長に対し、「所得税の仮想通貨の評価方法の届出書」を提出します。

なお、評価方法は年の途中で変更することはできません。変更を認めると譲渡価額を操作することができ、利益操作につながるためです。そのため、評価方法を変更する場合は、その年の3月15日までに、納税地の所轄税務署長に対し、「所得税の仮想通貨の評価方法の変更承認申請書」を提出して、その承認を受ける必要があります。

所得税の(有価証券・暗号資産)の評価方法の届出書クリックすると拡大します。

確定申告

雑所得で申告する場合は、雑所得(その他)に収入金額、必要経費等を入力(記入)します。

確定申告書等作成コーナーでは、以下のとおり入力します。

仮想通貨

確定申告書を印刷すると、以下のとおり表示されます。

仮想通貨確定申告書B第二表
仮想通貨確定申告書B第一表