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給与所得控除及び公的年金等控除から基礎控除への振替え
背景
所得税は、働き方や収入の稼得方法により所得計算が大きく異なります。例えば、事業所得については収入金額から必要経費を差し引き、給与所得については給与収入から給与所得控除額を差し引き、公的年金等に係る雑所得は公的年金等控除を差し引きます。
一方で、近年、経済社会の構造が著しく変化する中で、フリーランスや起業、在宅で仕事を請け負う子育て中の女性など、働き方が様々な面で多様化しています。そのため、「働き方改革」を後押しする観点から、給与や公的年金にのみ適用される給与所得控除や公的年金等控除を減額し、どのような所得にでも適用される基礎控除を増額することで、働き方や収入の稼得方法による所得計算の違いを縮小することとしました。
改正内容
- 給与所得控除額及び公的年金等控除額を10万円引き下げる。
- 基礎控除の額を10万円引き上げる。
- 給与所得と公的年金等所得の両方を有する場合は、一方のみを10万円引き下げることで、控除額の引下げが重複しないようにする(所得金額調整控除)。
給与所得控除額及び公的年金等控除額を10万円引き下げたことにより、所得金額が10万円増加します。そのため、一定の合計所得金額以下であることを要件とする制度も連動して10万円引き上げられます。
項目 |
令和元年分以前 | 令和2年分以後 |
---|---|---|
ひとり親控除 | 子の総所得金額等の合計額 38万円以下 |
子の総所得金額等の合計額 48万円 |
勤労学生控除 | 合計所得金額 65万円以下 |
合計所得金額 75万円以下 |
配偶者控除 | 合計所得金額 38万円以下 |
合計所得金額 48万円以下 |
配偶者特別控除 | 合計所得金額 38万円超123万円以下 |
合計所得金額 48万円超133万円以下 |
扶養控除 障害者控除 |
合計所得金額 38万円以下 |
合計所得金額 48万円以下 |
給与所得控除の見直し
背景
給与所得控除は、必要経費に相当する「勤務関連支出」としての性格と、事務負担の軽減を目的とした「概算控除額」としての性格があります。
「勤務関連支出」については、実際の支出額(服飾費等)に比べて過大となっており、「概算控除額」については、主要国に比べて過大となっているとの指摘がされています(平成26年度与党税制改正大綱)。
そのため、給与所得控除額に上限を設けるとともに、上限額を漸次引き下げることとしています。ただし、子育て世帯等については、負担増が生じないようにしています。
改正内容
- 給与所得控除額を一律10万円引き下げる(上記「給与所得控除及び公的年金等控除から基礎控除への振替え」)。
- 給与所得控除額の上限額が適用される給与等の収入金額を引き下げる(1,000万円→850万円)。
- 給与所得控除額の上限額を引き下げる(220万円→195万円)。
- 子育て世帯等(23歳未満の扶養親族を有する者や特別障害者控除の対象である扶養親族等を有する者等)については、負担増が生じないように調整する(所得金額調整控除)。
給与収入 |
給与所得控除額 | |
---|---|---|
令和元年分以前 | 令和2年分以後 | |
162.5万円以下 | 65万円 |
55万円 |
162.5円超180万円以下 | 収入金額×40% | 収入金額×40%-10万円 |
180万円超360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超850万円以下 | 収入金額×10%+120万円 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超1,000万円以下 | 195万円(上限) |
|
1,000万円超 | 220万円(上限) |
世帯等以外(850万円超から徐々に負担増)
子育て世帯等(負担増なし)
公的年金等控除の見直し
背景
公的年金等控除は、公的年金受給者が経済力が減退する局面にあることに配慮して設けられています。しかし、給与所得控除と異なり上限額がなく、公的年金以外の所得がいくら高くても公的年金のみの者と同じ額の控除が受けられるなど、高所得の年金所得者にとって手厚い仕組みとなっています。
そこで、世代内・世代間の公平性を確保する観点から、公的年金等控除に上限を設けるとともに、公的年金等収入以外の所得金額が一定の金額を超える場合は、公的年金等控除の額を引き下げることとしました。
改正内容
- 公的年金等控除額を一律10万円引き下げる(上記「給与所得控除及び公的年金等控除から基礎控除への振替え」)。
- 公的年金等の収入金額が1,000万円を超える場合、公的年金等控除額を195.5万円とする上限を設ける。
- 公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円超2,000万円以下の場合、公的年金等控除額を上記からさらに一律10万円引き下げる。
- 公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が2,000万円を超える場合、公的年金等控除額を上記からさらに一律10万円引き下げる。
年齢 | 公的年金等の 収入金額 A |
公的年金等控除額 |
||
---|---|---|---|---|
公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額 | ||||
1,000万円以下 | 1,000万円超 2,000万円以下 |
2,000万円超 | ||
65歳 未満 |
130万円未満 | 60万円 | 50万円 | 40万円 |
130万円以上 410万円未満 |
A×25% +27.5万円 |
A×25% +17.5万円 |
A×25% +7.5万円 |
|
410万円以上 770万円未満 |
A×15% +68.5万円 |
A×15% +58.5万円 |
A×15% +48.5万円 |
|
770万円以上 1,000万円未満 |
A×5% +145.5万円 |
A×5% +135.5万円 |
A×5% +125.5万円 |
|
1,000万円以上 | 195.5万円 | 185.5万円 | 175.5万円 | |
65歳 以上 |
330万円未満 | 110万円 | 100万円 | 90万円 |
330万円以上 410万円未満 |
A×25% +27.5万円 |
A×25% +17.5万円 |
A×25% +7.5万円 |
|
410万円以上 770万円未満 |
A×15% +68.5万円 |
A×15% +58.5万円 |
A×15% +48.5万円 |
|
770万円以上 1,000万円未満 |
A×5% +145.5万円 |
A×5% +135.5万円 |
A×5% +125.5万円 |
|
1,000万円以上 | 195.5万円 | 185.5万円 | 175.5万円 |
基礎控除額の引上げ
背景
基礎控除は、所得の多寡によらず一定金額を所得から控除しますが、高所得者にまで税負担を軽減する必要性は乏しいのではないかとの指摘があります。
そのため、基礎控除額を一律引き上げるとともに、所得が一定以上ある場合に、段階的に基礎控除をゼロとすることとしました。
改正内容
- 基礎控除額を10万円引き上げる(上記「給与所得控除及び公的年金等控除から基礎控除への振替え」)。
- 合計所得金額に応じて、控除額が段階的にゼロとする。
合計所得金額 |
令和元年分以前 | 令和2年分以後 | ||
---|---|---|---|---|
所得税 | 住民税 | 所得税 | 住民税 | |
2,400万円以下 | 38万円 | 33万円 |
48万円 | 43万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 | 29万円 | ||
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 | 15万円 | ||
2,500万円超 | - | - |
ひとり親控除の創設と寡婦(寡夫)控除の見直し
背景
従来の寡婦(寡夫)控除は、婚姻歴のない、いわゆる未婚のひとり親を対象としていませんでした。そのため、未婚のひとり親も婚姻歴のある親も経済的に苦しい状況は同じであること、離婚・死別した親の子どももいわゆる「未婚の母」の子どもも「ひとり親の子ども」という点では同じであることから、過去の婚姻歴の有無で区別することは不公平であるといった指摘がされていました。
また、従来の寡婦控除と寡夫控除は要件や控除額が異なっており、男女で不公平が生じていするとの指摘がされていました。
そこで、婚姻歴の有無にかかわらず「ひとり親控除」として所得控除を認めるとともに、男女での区別を廃止しました。
改正内容
- 婚姻歴や性別にかかわらず、生計を同じとする子(総所得金額等が48万円以下)を有する単身者について、同一の「ひとり親控除」(控除額35万円)を適用する。
- 上記以外の寡婦については、引き続き「寡婦控除」(控除額27万円)を適用する。ただし、子以外の扶養親族を持つ寡婦については、寡夫控除と同様の所得制限(所得500万円以下)を設ける。
- ひとり親控除、寡婦控除のいずれについても、住民票の続柄に「夫(未届)」「妻(未届)」の記載がある者は対象外とする。
扶養親族 | 税目 | 合計所得金額500万円以下 | 合計所得金額 500万円超 |
||
---|---|---|---|---|---|
死別 | 離別 | 未婚 | |||
子あり | 所得税 | 35万円 | 35万円 | 35万円 | - |
住民税 | 30万円 | 30万円 | 30万円 | - | |
子以外 あり |
所得税 | 27万円 女性のみ |
27万円 女性のみ |
- | - |
住民税 | 26万円 女性のみ |
26万円 女性のみ |
- | - | |
なし |
所得税 | 27万円 女性のみ |
- | - | - |
住民税 | 26万円 女性のみ |
- | - | - |
特定支出控除の拡充
改正内容
特定支出の範囲を以下のとおり拡充します。
- 勤務する場所を離れて職務を遂行するために直接必要な旅費等で通常要する支出を加える(職務上の旅費)。
- 帰宅旅費について、1か月に4往復を超えた旅行に係る帰宅旅費を対象外とする制限を撤廃する。
- 帰宅旅費について、帰宅のために通常要する自動車等を使用することにより支出する燃料費及び有料道路の料金の額を加える。
通勤費 | 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出 | |
---|---|---|
職務上の旅費 | 勤務する場所を離れて職務を遂行するための直接必要な旅行のために通常必要な支出 | |
転居費 | 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出 | |
研修費 | 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出 | |
資格取得費 | 職務に直接必要な資格を取得するための支出 | |
帰宅旅費 | 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出 | |
勤務必要経費 | 職務の遂行に直接必要なもののうち、以下に掲げる支出(限度額65万円) | |
図書費 | 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用 | |
衣服費 | 制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用 | |
交際費等 | 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出 |
青色申告特別控除の見直し
改正内容
- 取引を正規の簿記の原則に従って記録している者に係る青色申告特別控除の控除額を引き下げる(65万円→55 万円)。
- 取引を正規の簿記の原則に従って記録している者であって、次に掲げる要件のいずれかを満たすものに係る青色申告特別控除の控除額を 65 万円とする。
(1)その年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳について、電磁的記録の備付け及び保存(ハードディスク、CD、DVD等)又は電磁的記録の備付け及びその電磁的記録の電子計算機出力マイクロフィルム(COM)による保存を行っていること。
(2)その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表及び損益計算書等の提出を、その提出期限までにe-Taxを使用して行うこと。