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【配当・譲渡益】外国株式にかかる所得税・住民税【外国税額控除】

相談者
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最近、米国株式の取引を始めました。ただ、確定申告の仕方についてよく分かりません。

役所の税務担当として、毎日申告の相談を受けてきた筆者がズバリ解決します!

額面金額から手取り金額を計算する方法

外国株式の配当を受け入れたとき

配当は、まず外国で源泉徴収され、その残額(円換算後)に対して所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税(配当割)5%が差し引かれます(源泉徴収特別徴収

イメージ図

額面金額   外国所得税
外国所得税
税引後
(円換算)
(100%)
所得税 15%
復興特別所得税 0.315%
 住民税(配当割) 5%
手取り額 79.685%

手取り額の計算

(額面金額-外国所得税額)×79.685%×為替レート

米国株の場合、外国所得税の税率は10%です。
(額面金額-額面金額×10%)×79.685%×ドル/円
=額面金額×71.7165%×ドル/円

具体例

項目 計算方法 具体例(110ドル/円)
配当金額 額面金額 100ドル
外国所得税 (米国の場合)10% 10ドル
外国所得税引後 上記の差額 100ドル-10ドル=90ドル
所得税 外国所得税引後
×15%
90ドル×15%×110
=1,485円
復興特別所得税 外国所得税引後
×0.315%
90ドル×0.315%×110
=31円
住民税 外国所得税引後
×5%
90ドル×5%×110
=495円
手取り額 額面金額-上記税額 90ドル×110-(1,485円+31円+495円)
=7,889円

外国株式の譲渡益(売買益)が生じたとき

特定口座(源泉あり)で受け入れた外国株式については、それぞれ円で換算した取得価額と譲渡価額の差額(譲渡益)について、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税(株式等譲渡所得割)5%が差し引かれます。

円換算のレートは以下のとおりです。
・譲渡価額:約定日の対顧客直物電信買相場(TTB)
・取得価額:約定日の対顧客直物電信売相場(TTS)

イメージ図

譲渡価額
(TTB)
取得価額
(TTS)
譲渡益
(100%)
所得税 15%
復興特別所得税 0.315%
住民税(株式等譲渡所得割割) 5%
手取り額 79.685%

手取り額の計算

(譲渡価額×TTB-取得価額×TTS)×79.685%

具体例

項目 計算方法 具体例
TTS:108ドル/円
TTB:110ドル/円
譲渡価額 売却代金-手数料 100ドル×110ドル円
=11,000円
取得価額 購入代金+手数料 80ドル×108ドル/円
=8,640円
譲渡益 取得価額-譲渡価額 11,,000円-8,640円
=2,360円
所得税 譲渡益の15% 2,360円×15%
=354円
復興特別所得税 譲渡益の0.315% 2,360円×0.315%
=7円
住民税 譲渡益の5% 2,360円×5%
=118円
手取り額 譲渡益-上記税額 2,360円-(354円+7円+118円)
=1,881円



確定申告を行うべきかどうか

配当や特定口座(源泉あり)で受け入れた株式の譲渡益は、所得税・復興特別所得税が源泉徴収、住民税が特別徴収されています(天引き)ので、他に確定申告しなければならない事由がなければ、確定申告をする必要はありません。

一方で、確定申告をした方が税額が低くなる場合もあるため、比較のシミュレーションをすることをおすすめします。ただし、所得税及び復興特別所得税のほか、住民税、国民健康保険料(税)にも影響しますので注意が必要です。また、申告することで、配当や譲渡益が合計所得金額に算入されますので、扶養控除の対象から外れるなどの影響もあります。

確定申告した場合としない場合の違い

確定申告した場合 確定申告
しない場合
総合課税 申告分離課税
所得税
復興特別所得税
総合課税
5.105%~45.945%
分離課税
15.315%
源泉徴収
15.315%
住民税 総合課税
10%
分離課税
5%
特別徴収
5%
配当控除 あり なし なし
外国税額控除 あり あり なし
損益通算
繰越控除
総合課税内のみ 上場株式等に係る譲渡損失のみ なし
所得控除 あり あり なし
合計所得所得 算入 算入 不算入

※総合課税は配当所得のみ選択可
※株式等に係る譲渡所得は特定口座(源泉あり)で受け入れた場合のみ申告不要(確定申告をしない場合)を選択可

課税所得金額の比較

確定申告した場合 確定申告
しない場合
総合課税 申告分離課税
総合課税内の
損益通算・繰越控除
上場株式等に係る譲渡損失の
損益通算・繰越控除
所得控除

総合課税内の損益通算・繰越控除

同じ年分に不動産所得、事業所得、譲渡所得(総合課税)、山林所得から生じる損失があり、配当所得以外の所得と損益通算をしてもなおマイナスとなる場合は、配当所得を総合課税で申告し、配当所得と損益通算します。損益通算された部分は課税されません。

配当所得100-不動産所得80=損益通算後の配当所得20

また、前年分から繰り越された雑損失または純損失があり、配当所得以外の所得を繰越控除をしてもなおマイナスとなる場合は、配当所得を総合課税で申告し、配当所得を繰越控除します。繰越控除された部分は課税されません。

配当所得100-純損失の繰越控除80=繰越控除後の配当所得20

上場株式等に係る譲渡損失の損益通算・繰越控除

同じ年分に他の口座において上場株式等に係る譲渡損失がある場合や、前年度から繰り越された上場株式等に係る譲渡損失がある場合は、申告分離課税を選択することで、損益通算や繰越控除を適用することができます。損益通算または繰越控除された部分は課税されません。

配当所得100-上場株式等に係る譲渡損失80
=損益通算・繰越控除後の配当所得20

所得控除の適用

配当所得以外の所得から所得控除を控除しきれない場合は、配当所得を総合課税で申告し、配当所得から控除しきれなかった所得控除を差し引きます。所得控除が差し引かれた部分は課税されません。

給与所得100+配当所得100-所得控除180=課税総所得金額20

また、総所得金額(総合課税)から所得控除を控除しきれない場合は、配当所得または上場株式等に係る譲渡所得を分離課税で申告し、当該所得から控除しきれなかった所得控除を差し引きます。所得控除が差し引かれた部分は課税されません。

給与所得100+上場株式等に係る譲渡所得100-所得控除180=上場株式等に係る課税譲渡所得金額20

税額計算の比較

税率の比較

所得税・復興特別所得税・住民税を踏まえた税率は以下のとおりです。

所得税・復興特別所得税・住民税の税率の合計
課税総所得金額 総合課税 申告分離課税・申告不要
195万円以下 15.105% 20.315%
195万円超 330万円以下 20.21%
330万円超 695万円以下 30.42%
695万円超 900万円以下 33.483%
900万円超 1,800万円以下 43.693%
1,800万円超 4,000万円以下 50.84%
40,000万円 55.945%

課税総所得金額が330万円を超えると総合課税の方が高くなります。

税額控除の適用

確定申告した場合 確定申告
しない場合
総合課税 申告分離課税
配当控除
外国税額控除

配当は、法人税が引かれた後の利益に対して支払われ、その残額に対して所得税が引かれます。この二重課税を回避するため、総合課税で申告した場合に限り配当控除を適用することができます。申告分離課税や申告不要の場合は低い税率が適用されているため、配当控除は適用されないこととなっています。

また、外国株の配当は、まず外国の所得税が差し引かれ、その残額に対して日本の所得税・復興所得税・住民税が差し引かれます。この二重課税を回避するため、総合課税または申告分離課税を選択した場合に限り外国税額控除を適用することができます。

合計所得金額の算入

総合課税または申告分離課税で申告すると、配当所得、上場株式等に係る配当所得、上場株式等に係る譲渡所得として、合計所得金額に算入されます。それにより、次のような影響が生じます。

扶養控除や配偶者控除が適用されなくなる可能性がある

合計所得金額に算入することで、扶養控除や配偶者控除の適用を受けられなくなるおそれがあります。

国民健康保険料や介護保険料が上がる可能性がある

わが国は「国民皆保険」が採用されており、会社勤めの人とその被扶養者は健康保険、公務員とその被扶養者は共済保険、それ以外の人は国民健康保険に強制的に加入します。
また、40歳になると健康保険、共済保険、国民健康保険に介護保険料が上乗せされます。

健康保険と共済保険は標準報酬月額(毎年4月~6月の給与額の平均を等級に当てはめたもの)に基づき健康保険料や介護保険料が算定されるため、配当や譲渡益の申告の有無は関係ありません。

一方で、国民健康保険は、前年の総所得金額等に基づき保険料が算定されます。配当や譲渡益を申告すると、総所得金額等が増加しますので、国民健康保険料(税)や介護保険料も増加する可能性があります。

国民健康保険料率の例(令和2年度所得割)

市区町村 医療分 支援分 介護分
東京都新宿区 7.14% 2.29% 1.90%
横浜市 7.22% 2.17% 2.46%
大阪市 8.06% 2.78% 2.62%

確定申告した場合はふるさと納税のワンストップ特例制度が適用されなくなる

ふるさと納税のワンストップ特例制度を利用した場合(寄附金税額控除に係る申告特例申請書を市区町村に提出した場合)、確定申告をしなくても、最大で、寄附金額から2,000円を差し引いた金額が住民税から控除されます。

しかし、確定申告をした場合はこの制度が適用されなくなることから、確定申告にて寄附金控除を申告する必要があります。

申告方法により控除される税目が異なる
所得税 住民税
ワンストップ特例制度 適用なし 寄附金税額控除
確定申告 寄附金控除 寄附金税額控除

※原則として、控除される金額の合計はどちらの方法であっても同額です。

シミュレーション

モデルを簡略化するため、所得税のみでシミュレーションします。

給与所得100万円、配当20万円
医療費控除20万円、社会保険料控除10万円
扶養控除38万円、基礎控除48万円

(1)申告不要を選択した場合
総合課税 所得金額
100万円
所得控除額
20万円+10万円+38万円+48万円=116万円
所得税額
(100万円-116万円)×5%<0円 ∴0円
配当の
源泉徴収税額
20万円×(1-0.1)×15.315%=2万7,567円
合計 0円+2万7,567円=2万7,567円
(2)総合課税を選択した場合
総合課税 所得金額
100万円+20万円=120万円
所得控除額
20万円+10万円+38万円+48万円=116万円
税額控除前の所得税額
(120万円-116万円)×5%=2,000円
配当控除
20万円×10%=2万円
外国税額控除
0円
税額控除後の所得税額
2,000円-(2万円+0円)<0円 ∴0円

総合課税を選択すると、所得税額は0円となり、源泉徴収税額2万7,567円が還付されるため、確定申告した方が有利です。