『あたしの残りぜんぶあげる』のMVがYouTubeの公式チャンネルで公開されました。ニューシングル『鏡の中から/あたりの残りぜんぶあげる』に収録されており、作詞は古谷完、作曲・編曲は藤永龍太郎(Elements Garden)です。藤永氏は「きみわずらい」「ありきたりな言葉で」など、まねきケチャの名曲を数々手掛けています。今回もまねきケチャらしいミディアムバラードに仕上がっています。
今回は、『あたしの残りぜんぶあげる』の世界観を解説するとともに、今後のまねきケチャの今後の可能性を考えていきます。
コンテンツ
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『あたしの残りぜんぶあげる』MV
MVをまだ見ていない方は、まずはご覧ください。
監督|柴田将利(しばた まさとし)
脚本|小鶴乃哩子(こづる のりこ)
人物設定
藤川千愛(役名 柊かすみ)
歌手になることだけを目標に生きてきたけれど、苦労している母、小さな弟がいるのに、自分だけ好きなことをやり続けてよいのかと悩む大学三年生。
宮内凛
緑豊かな郊外にある女子高の三年生。臨時教員としてやってきた先生に恋をし、秘密を親友にだけ打ち明けるが・・・
深瀬美桜
インターハイ出場に向けて、バスケットに打ち込む女子高生。そんなある日の練習中に・・・
松下玲緒菜
下町にある家族経営の居酒屋の一人娘。いつものように店の手伝いをしていると、母親が急に倒れてしまう。医者に呼び出され父親と共に話を聞くと・・・
中川美優
孤独を抱え生きている女の子。友達もいない。両親に愛されていないと感じ、家にいると居心地が悪い。
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MV解説
プロローグ
曲に入る前にそれぞれの状況説明があります。歌手になることの夢をあきらめないまま就職活動をする藤川千愛、教員と秘密の恋愛をする宮内凛、インターハイに向け必死に練習する深瀬美桜、倒れた母を看病する松下玲緒菜、孤独に一人で歩く中川美優。
そして藤川千愛のセリフが入ります。「夢なんて見たくない。期待しなければ苦しくないから。生きるって、痛い。どうして?こんなにも痛いんだろう。」
イントロ
曲は藤川千愛の歌唱シーンで始まります。5人の状況説明を表わす映像が続きます。
Aメロ・Bメロ
松下玲緒菜と父が医者の話を聞くシーンに変わります。命があとわずかであることが宣告されたのでしょう。中川美優は大学でも友達がいなく、1人でいる様子が描かれています。宮内凛は廊下ですれ違った先生とこっそり手を触りあう様子が描かれています。
サビ
歌唱シーンが松下玲緒菜→中川美優→宮内凛→深瀬美桜→藤川千愛と続きます。
その後、藤川千愛の面接シーンが映し出されます。うまく伝えられなかったのでしょう。面接官の眉間にしわが寄っています。深瀬美桜の歌唱シーンを挟んだ後、うなだれながら小学校の文集を見る藤川千愛が映し出されます。「わたしの夢」と題された作文には、「歌手になるのが夢です。」と書かれています。
間奏
深瀬美桜は仲が良いであろうバスケのチームメートと喜び合います。中川美優は1人で夜のクラブをたむろします。
Aメロ・Bメロ
深瀬美桜に悲劇が訪れます。先ほどの仲が良いであろうチームメートとの接触でケガをしてしまいます。呆然とするチームメートと痛々しい深瀬美桜が映し出されています。
松下玲緒菜は父と病気の母の3人で家族写真を撮っています。おそらく、母が亡くなる最期に記念写真を撮っているのでしょう。
再び深瀬美桜のシーンです。ギブスをつけながら練習するも、思い通りにいかず悔しがる様子が映し出されています。
次に宮内凛に悲劇が起こります。先生との恋愛が発覚し、黒板一面に宮内凛への悪口が書かれ、クラスメートにこそこそ笑われます。
この後登場する藤川千愛の歌唱シーン「生きるって痛いんだね。生きるって痛いんだね。」が心に刺さります。
Cメロ
藤川千愛に内定通知書が届きます。しかし、躊躇なく破り捨てる様子が映し出されています。歌手になることの夢を選択したのでしょう。この決意が冒頭の母親からの電話によるものなのかははっきりしません。
松下玲緒菜は、父、医者、看護師とともに、母の最期を見届けます。松下玲緒菜の号泣する姿に心が打たれます。
宮内凛は先生を追いかけますが、突き放されてしまいます。
間奏
翌日自宅に戻った中川美優は父に思いっきりビンタをされます。孤独と戦っていたことを知った父は娘(中川美優)を抱きしめます。
深瀬美桜はケガをさせたチームメートと夜の公園のブランコで語り合い、チームメートが泣き出す様子が映し出されています。
宮内凛は学校の屋上で一人泣き出します。
大サビ
バスケのシーンが入ります。深瀬美桜がベンチで応援する中、残り時間わずかでケガをさせたチームメートがシュートします。
松下玲緒菜のシーンが入ります。生前に撮った母の動画を見て泣き出します。母は娘への感謝の気持ちを伝えていたのでしょうか。
再びバスケのシーンに戻ります。先ほどのシュートは見事にゴールし、ケガをさせたチームメートは一目散に深瀬美桜のもとへ駆け寄ります。2人で泣きながら喜び合う様子が映し出されています。
後奏
中川美優は家族に見守られながら家を出ていきます。
宮内凛は空を見上げます。吹っ切れたのでしょうか。
再び中川美優のシーンです。雨が降っていたようで、両親が傘を走って持ってきます。家族に愛されていることを中川美優は実感したのでしょう。
藤川千愛は歌手になることを目指し、レッスン教室の門を叩きます。
最後に5人が屋上から夕陽を眺めるシーンが映し出され曲が終わります。
感想
『タイムマシン』『どうでもいいや』に続きストーリー仕立てのMVでした。まねきケチャは楽曲のみならずMVも完成度が高いといえます。それぞれの人生が端的に表現されているため、感情移入するシーンがあったかもしれません。私事にはなりますが、1年前に父を亡くした経験から、松下玲緒菜のシーンに涙を流してしまいました。
Twitter上でも感動した旨のツイートが多くみられました。映像上の演出もあるとは思いますが、メンバーの演技力が高いことが一番の要因だと思います。改めてまねきケチャのポテンシャルの高さを感じました。
当方のスタンスとして、まねきケチャは「アイドル」ではなく「アーティスト」であると見ています。「アーティスト」といっても単に「歌手」に限定するものではなく、芸術全般に及ぶものであると考えています。ライブで魅了する「歌唱力」「ダンス」「表情」「衣装」「モニター映像」、CDジャケット、そしてMVなど、さまざまな表現媒体が総合されて「まねきケチャ」が成り立っていると思うのです。
アイドルという範疇にくくられると、どうしてもビジュアルや接触イベントでの対応に重点が置かれてしまいますが、まねきケチャのポテンシャルを鑑みると、それだけに注目するのは非常にもったいないことです。アイドルを軸とした「総合芸術」を武器に、ぜひ一般層へのアプローチを図っていってもらいたいものです。
現在のまねきケチャと照らし合わせて
『あたしの残りぜんぶあげる』の楽曲が披露されたのは、12月24日のライブでした。また、このMVが撮影されたのは、3月12日の週であることが、3月17日(土)に行われたリイリベのMCで明らかになっています。18日(日)が深瀬美桜生誕祭で、20日(火)が藤川千愛の活動休止の発表日です。
楽曲発表、MV撮影、ジャケット写真撮影は全てまねきケチャが「通常営業」だったころに行われています。
MV冒頭、「夢なんて見たくない。期待しなければ苦しくないから。生きるって、痛い。どうして?こんなにも痛いんだろう。」と苦しそうに言う藤川千愛の声が、どうしても現在置かれた藤川千愛の言葉に通じてしまうとの意見がTwitter上に多く見られました。もちろん関係はありませんが、複雑な気持ちになってしまうのは致し方ないことでしょう。
まねきケチャは5人そろってはじめて「総合芸術」の表現者となります。正直、3月29日(木)に行われた3人でのリリイベは、表現者としての「まねきケチャ」ではありませんでした。
あくまでも売上のために営業するアイドルに過ぎませんでした。短期的には致し方ないのかもしれませんが、長期的に見ると、今の活動方針には疑問が生じます。
せっかくここまで完成度の高いMVを作れるのですから、仕事の幅を含めて、単なるライブアイドルからの脱却も視野に考えていかなくてはならないのでしょうか。